
今の時代はWikipedia(ウィキペディア)で調べればいいとも言われますが、やはり紙の辞書がやめられません。
2018年1月12日、岩波書店から「広辞苑 第七版」が発売されました。
10年ぶりの改訂です。新しい用語が多く取り入れたようです。
辞書と言えば広辞苑、私はそう思っていました。そのため発売と同時に書店で購入しました。
とはいえ、さっそく新しい広辞苑に対する間違いが指摘されています。
見る人は見ているのですね。もちろん言い訳はいけませんが、言葉を説明する・辞書を作ることは難しいことです。
目次
広辞苑(こうじえん)とは
ボリュームがあり、持ち歩けるサイズではありません。そのため学生では扱いにくいでしょう。
しかし、
- 語彙(ごい)数が多い(第七版では付録も含めて約25万語が収録されています)
- 図も掲載していて百科事典のような要素もある
これらの点から、ちょっとした調べものにも重宝します。
大元は昭和初期に出版された「辞苑」だと言われています。
第二次世界大戦後に岩波書店が発行元になり名前も「広辞苑」に変わりました。
長年続いている辞書なので信頼性が高く、クイズ番組でも広辞苑を参考にしている例を見かけますね。
広辞苑は、おおよそ10年に一度改定しています。
前回の改定、第六版は2008年(平成20年)でした。今回の第七版は10年ぶりの改訂です。
もちろん削った言葉もあるでしょうが、この10年間に生まれた新語などを約1万項目追加したようです。
広辞苑の説明に誤りが見つかる
新聞報道があった部分だけでも、広辞苑第7版には3つの誤りが指摘されています。
1.台湾
「広辞苑 第七版」1773ページに「台湾」に関する説明があります。
そこでは台湾を「国」とは明言していません。抜粋すると「…1945年日本の敗戦によって中国に復帰し…」とあります。
この点に台湾側からクレームが入ったようです。台湾の主張は「中華人民共和国の一部ではない」からです。
ただし、この問題は以前からあったようです。しかし岩波書店として、日本の立場として?譲れない線なのかもしれません。
それでも辞書の内容に不満を持つ、納得できない人たちがいるということは否めない事実です。
2.LGBT
「広辞苑 第七版」342ページに「LGBT」に関する説明があります。
ここで問題視されたのは「…多数派とは異なる性的指向をもつ人々」とだけ書かれていた点です。
Lはレズビアン・Gはゲイ・Bはバイセクシャル・Tはトランスジェンダーを指します。
このうち、性的指向を指すのはLGBです。
トランスジェンダーとは、生まれたときに「男・女」と決められた性別と自分が認識している性別が違うこと(性別違和)を指します。性的指向を表す言葉ではありません。
つまり、広辞苑第七版はトランスジェンダーの説明が不足していたのです。
当事者たち、または医療系など有識者の意見を聞いたのでしょうか。この点は基本的かつ致命的なミスとも言えるからです。
3.しまなみ海道
「広辞苑 第七版」1337ページに「しまなみ海道」に関する説明があります。
ここで問題なのは「…周防大島を経由する」とした点です。
しまなみ海道は、広島県と愛媛県を結ぶ道路です。周防大島は山口県です。もちろん、位置を考えれば経由はできません。
ネットでも指摘がありますが、ちょっと調べればわかったはずではないのでしょうか。
テレビ番組で校正の仕事が取り上げられましたが、これは本当に大変です。校正をするときは、なかばイチャモンをつけるかのように疑ってかからないと、凡ミスは防げません。
紙の辞書は修正できない
今の時代は、わからないことがあればネットで調べる人が多いでしょう。
とはいえネットには、虚偽情報・フェイクニュースが少なくありません。
もちろんネットなら間違いがあった際、すぐに修正できます。
しかし紙の辞書であれば、基本的に修正できません。正誤表を購入者全員に配ることはほぼ不可能です。
それでも私は紙の辞書をおすすめします。もちろん間違いはあるでしょうが、逆に間違いのない本は極めてまれです。
ネットの意図的を含めた誤記に比べれば、紙の辞書によるメリットの方が大きいはずです。
誤記があった場合、参考書などであれば出版元のウェブサイトに正誤表を載せています。私が気づいただけでも、教科書や参考書にも誤字はあります。
言葉の説明は難しい
辞書の悪口を言ってしまいますが、辞書を作る、そもそも言葉を説明することは難しいものです。
わが家にある辞書で比べてみると、同じ言葉でも辞書によって説明が異なっています。
(1)「論理」とは
たとえば、わかりにくい言葉の代表として「論理」とは何か。
参考「論理的思考を身につけるために必要な5つのポイント【小論文・記述問題対策にも】」
岩波書店「広辞苑 第七版」 |
---|
思考の形式・法則。また、思考の法則的なつながり。論証のすじみち。 |
講談社「日本語大辞典」 |
思考や議論の道筋。推論の運び方。 |
小学館「新選国語辞典 第九版」 |
議論や話のすじみち |
ちなみに漢字辞典ですが、角川書店『机上漢和辞典増補改訂第1版』では「議論のすじみち」となっています。
(2)「右」とは
あなたは、幼児から「右ってなあに」と尋ねられた時、どのように説明しますか?
岩波書店「広辞苑 第七版」 |
---|
南を向いた時、西にあたる方。 |
講談社「日本語大辞典」 |
南に向かって西のほう。 |
小学館「新選国語辞典 第九版」 |
東に向かって南のほう。大部分の人にとって、はしを持つ手のあるほう。 |
いずれも方角を使って説明しています。ならば「南って何?」という疑問があらたに生まれそうです。説明し出すと終わりがありません。
(3)「走る」とは
動詞の「走る」はどうでしょうか。
岩波書店「広辞苑 第七版」 |
---|
勢いよくとび出したり、す早く動きつづけたりする意。 |
講談社「日本語大辞典」 |
人や動物が、駆け足で、速く進む。 |
小学館「新選国語辞典 第九版」 |
はやくいく。かけていく。 |
辞書ごとにクセがある
これまで見てきたように、同じ用語でも違った説明をしています。とはいえどれも、わかったような、わからないような内容です。
辞書によってクセがあります。編集者のこだわりかもしれません。
そのため書店で辞書を購入する際には、いくつか気になる用語を比べてみるとよいでしょう。一番自分が納得できる辞書を探しましょう。
言葉の意味は時代で変わる
辞書作りが大変な理由は、言葉の意味が時代によって変わるからです。
辞書が「本当の意味はこれですよ」と伝えても、現代人に通じなければ意味がありません。
参考「【正しい日本語とは何か】誤用の方が大多数!言葉の意味は変わる?」
極端ではありますが、古典を読む、古語辞典で調べると、昔と今の違いを実感します。
そもそも言葉の正しい意味など、あるのでしょうか。
正しい意味はどこにあるのか
私たちは、わからないことがあれば辞書を使います。
とはいえ、その辞書が間違っていたらどうでしょうか。どこまで信じるべきなのでしょうか。
辞書の作製に際しては、何重にもチェックして凡ミスをなくすべきですが、正しいことなど本当にあるのでしょうか?
塾で教えていても、子供たちから「違う」と言われると、不安に思うことが少なくありません。
何が正しいのか、調べれば調べるほどわからなくなります。