
数年前に、高級レストランなどでエビの偽装問題がありました。覚えていますか。とはいえその根底には、定義の曖昧さがあるようです。例えばロブスターとオマールエビの違いは?そもそも高級エビの正体は大型ザリガニだった!
エビについては誤解も少なくありません。新聞記事でも混乱があります。もちろん専門家でも議論が分かれるほど複雑であり分類は難しくなります。しかし基本的な特徴を知っておくと、納得できるかもしれません。
目次
エビとはどんな動物か
1.生物学的な分類
生物の分類は、いくつかの段階に分かれます。まず動物界と植物界に分かれ、さらに門、綱、目、科、属、種へと降りていきます。例えば人間は、動物界、脊椎動物門、哺乳綱、霊長目、ヒト科、ヒト属、ヒト種です。
一方でエビを含む甲殻類は、背骨のない無脊椎動物の一種です。分類学的には節足動物門に入ります。節足動物は体内に骨がなく外骨格で覆われており、節のある足が特徴です。昆虫やクモも節足動物です。
参考「クモの巣を見たら、害虫がいる証拠です」
次の分類は軟甲綱です。この中には、甲殻類の内で数少ない陸上生物であるワラジムシやダンゴムシが入ります。なお軟らかい甲羅という意味ですが、相対的な話であり、比較対象がフジツボだとされています。
そしてエビ目もしくは十脚目です。ここから大きく分かれます。亜目や下目として専門家でも議論があります。具体的にはクルマエビ下目、ザリガニ下目、イセエビ下目、アナジャコ下目、ヤドカリを含む異尾下目、カニ全般である短尾下目などです。
2.エビとカニの違いは何か
節足動物のうち、足が6本だと昆虫です。同8本がクモやダニ、サソリの仲間です。そして10本から14本までの間が甲殻類です。さらに15本以上、事実上偶数なので16本以上になるとムカデ、ゲジ、ヤスデなどの多足類になります。
ちなみに甲殻類の足が14本までになっている理由は、ここにダンゴムシやワラジムシである等脚目が該当するからです。一時期話題になったダイオウグソクムシも含まれます。
では本題としてエビとカニの違いは何か?どちらもハサミを含めて10本の足があります。つまりエビとカニの決定的な違いは、尻尾の有無です。かつてエビは有尾類とも呼ばれていましたが今はこの呼称を使わないようです。
誤解を恐れず単純化して言えば、横に平べったいのがカニ、縦に長細いのがエビ!そう考えても、大きな間違いではありません。
3.タラバガニはカニじゃない
カニといえばタラバガニも有名ですが、こちらは厳密に言うとカニではありません。つまりタラバガニは歩脚6本プラス左右のハサミで計8本。これは例外、というかヤドカリの仲間だからです。
つまりヤドカリの特徴は、歩脚が3対6本です。もちろん見方によって異なりますが、ハサミを含めて日常的に使う足が3対6本で、後ろに小さい足2対4本があると考える説もしくは種があります。
4.イセエビとオマールエビの違い
エビとザリガニの違いは何か?言い換えるとイセエビとオマールエビとの違いです。例えばオマールエビやペットとして愛好されたアメリカザリガニは、大きなハサミを持っています。これがある意味でエビのイメージかもしれません。
一方でイセエビにはハサミがありません。大正エビやサクラエビにも目立ったハサミはありません。爪が大きくなった程度です。ちょっと不思議な気もしますが、勘違いです。エビとは、本来ハサミのない動物なのです。
ちなみにザリガニやオマールエビの大きなハサミは、威嚇用と考えられており、怪獣映画のように、このハサミで獲物を襲うわけではないようです。なおオマールとはフランス語でハンマーを意味するとか。
ザリガニを食べるとはちょっと不気味ですが、昔から日本ザリガニなどを食用することはあったようです。見かけはエビですから問題ないでしょう。とはいえペットで飼っていた人にとっては、抵抗がありそうです。
5.ロブスターとは何か
生物学的な狭義のロブスターは、ザリガニ下目アカザエビ科ロブスター属の大型動物です。平均すると50センチ程度ですが中には1メートルを超える個体もいるとか。基本的に甲殻類は死ぬまで脱皮を続け、その都度大きくなります。
さらにロブスターは2つに分かれます。つまりアメリカンロブスターとヨーロピアンロブスターです。とはいえ地域的な違いであり、大西洋を挟んで欧州側がヨーロピアン、北米側がアメリカンです。味はアメリカンの方が美味しい?賛否両論ありますが、全体的にアメリカンの方が大きいようです。
一方で広義には、イセエビなどのエビ類全般をロブスターと呼ぶことがあります。ここが混乱しやすい部分です。日経新聞2016年12月22日22ページでは、この点を複雑に?解説していました。
もちろん専門家によっても生物種の分類は難しいものです。何を基準にするかで全く異なる解釈になるからです。最終的にDNA鑑定が一般的になり、その結果が教科書に載るのでしょう。
6.英語でエビを何と言う
英語でエビを何と言うか。shrimpもしくはprawnです。シュリンプは小さいエビを指します。またクルマエビなどの中型がプラウンです。そして大型のエビがlobsterです。なおイセエビをspiny lobsterと呼ぶことがあります。これは表面がトゲトゲしているからです。
ロブスターやエビに関する混同の原因は、英語にあるのかもしれません。日本では大きくても小さくてもエビですが、欧米圏では呼び分けています。
ちなみにザリガニはcrayfishです。魚?オーストラリア産のイセエビもcrayfishと呼ばれているとか?ここまでくると意味がわかりません。
地域によって好みが異なる
食べ物に対する好みは地域によって異なります。それは元々その場所で獲れた生き物を主体にしているからです。そのため他民族の食文化に文句を言うのは失礼でしょう。エスノセントリズム!異文化を否定することにもつながりかねないからです。
1.欧米ではオマールエビが好まれます
欧米でエビ料理と言えばオマールエビ、すなわち狭義のロブスターかもしれません。大きいエビは、やはり地域に限らず高級食材のようです。では欧米でイセエビは食べないのでしょうか。
とはいえこれは生息地の違いと言えるでしょう。イセエビは日本の太平洋側から韓国や台湾にかけてのみ生息しています。インド洋や東太平洋までは広がっていないようです。単に捕獲できなかっただけです。あればフランス料理も違ったかもしれません。
2.日本ではイセエビが好まれます
日本のおせちを含めて高級料理の代名詞は、ハサミのないイセエビですね。ハサミならカニでしょうか。逆にオマールエビが入っていたらどうなるか?ちょっと違うイメージかもしれません。
エビは、腰が曲がるまで長生きできるように!縁起物です。とはいえ昨今はお正月にカニを食べる風潮が広がっています。もちろん大きなハサミは福を招く縁起物だとか?単にカニの旬が冬だから?
世界的に比べても日本人はエビが好きなようです。もちろん種類も多様です。小さなサクラエビから、エビチリやお寿司、エビフライや天ぷら、そしてイセエビです。ちなみに北海道ではお寿司のエビは生!こんな地域差もあります。
3.エビはゲテモノか
最近は甲殻類アレルギーの人も増えているようですが、エビやカニが好きな人も多いですね。とはいえダンゴムシが親戚だと思うと、食欲も失せてしまいそうです。ではエビはゲテモノなのでしょうか。
そう考えると、人間の食文化とは不思議なものです。昆虫も油で揚げると、小エビの素揚げを食べているような感覚だとか。見た目で変なイメージを持つと食べられませんが、目隠しすると、意外と美味しい食材があるのかもしれません。
参考「若者必見!虫を食品として受け入れるべき3つの理由」
エビと日本人
20世紀の終わり頃、東南アジアで水田を改造しエビの養殖池を作るブームがありました。同時に大量のマングローブも伐採されたと言われています。しかしそのエビは、現地の人たちの口には入りません。日本などへの輸出用だからです。エビ好きの日本人は、ちょっと考えてみるべきかもしれません。
エビの偽装問題
高級レストランなどで使っている食材を偽る?エビに関しても偽装問題が世間を賑わせました。例えばメニューには芝エビだけど実際はバナメイエビだった?同様にイセエビの代わりにロブスター!クルマエビではなくブラックタイガー?
もちろん言われたからわかるのですが、大きな違いはあるのでしょうか。業者をかばうわけではありませんが、知らぬが仏!そうした事例は少なくないでしょう。美味しいと思っていれば、それでよいのです。
そもそも日本人はどこまでエビについて詳しいのか?偽装を許してはいけませんが、消費者こそ賢くなるべきです。