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昭和に生きた人であれば、水銀体温計や赤チンを普通に使っていたでしょう。一方で水俣病というイメージもありそうです。昨今は豊洲市場の問題で水銀が再び脚光を浴びています。そもそもどんな物質なのでしょうか?デマに流されないためには、正しい知識が必要です。

水銀の化学的特徴とは

銀という漢字が使われているので貴金属のようなイメージがあります。とはいえ具体的な化学的特徴から考えてみましょう。

1.元素のひとつです

同じく豊洲の問題ではベンゼンという物質がありました。しかしベンゼンは複数の元素が結合した化合物です。一方で水銀は、元素のひとつです。元素とは、例えば水素や酸素などと同じです。
参考「元素の周期表を理解すれば化学がよくわかります

原子番号は80、金属元素の一種であり、元素記号はHg、質量は200.6です。英語ではMercury(マーキュリー)と呼ばれます。なお水銀との合金をアマルガムと呼びます。鉄やニッケルなど一部の金属をのぞけば、非常に反応しやすい元素とされています。

酸素や水素などは、それだけだと見えないし実感がわきません。とはいえ金属の場合には、鉄や金など、同一元素のみで目に見える大きさの塊を作るためイメージしやすいかもしれません。

2.唯一常温で液体の金属です

水銀は固体から液体になる温度、すなわち融点が-38.9℃です。また固体が気体になる温度である沸点が357℃です。つまり常温では液体です。言い換えると常温で液体になる唯一の金属です。

もちろん名前の由来は、銀色をした水のような液体!昔の人であれば神秘的に見えたでしょう。そのため占星術や錬金術に使われたようです。

沸点は水よりはるかに高いですが、常温でも蒸発しやすい物質です。そもそも蒸発は、沸点以下でも常に起きています。例えば水の沸点は100℃ですが、100℃にならないと水が蒸発しないなら、洗濯物は永久に乾きませんね。そういう理屈です。

毒性を持つ物質です

水銀と聞くだけで怖いイメージがありそうです。もちろん水俣病を筆頭とした中毒事件があるからです。では実際の有毒性について考えてみましょう。

1.無機水銀

体温計に使われていたのは水銀の単体です。絶対にやってはいけませんが、液体の状態で飲んだとしても生体との反応性に乏しいため、腸管から吸収されずそのまま排泄されると考えられています。ただし腸内細菌への影響はわかりません。

とはいえ揮発性があります。水銀のガス、つまり気体の状態で吸い込むと、肺や皮膚から直接血管へ入り込むため、肺自体や腎臓そして脳などに大きな障害をもたらすと考えられています。

一方で自然界に存在しているのが硫化水銀と呼ばれる状態です。原則として水に溶けません。赤い色をしているため、鳥居などの塗料として使われていました。これは雨にも溶けにくいので、金属素材に被膜を作り錆防止の意味があったようです。

ちなみに水銀の毒性実験で使われるのは塩化水銀です。もちろん上述のように消化管から吸収されにくいので注射剤として用いられます。この場合には腎臓障害を引き起こすとされています。

2.有機水銀

水俣病で問題になったのが有機水銀です。具体的にはメチル水銀です。これが体内に入ると、主に脂肪組織へ沈着します。食物連鎖によって、海水からプランクトン、小魚、大魚、そうして濃度が高まり、人間に至ったと考えられています。

メチル水銀は神経毒と言われています。つまり脳の障害を引き起こします。特に脳が発達する胎児や小児の時期に有機水銀が体内に入ると、致命的な障害を与えます。そのため妊娠中の女性は気を付けるべきとされてます。

なお新潟大学の研究チームは、脳の中へ有害物質が入るのを防ぐシステムをメチル水銀が破壊してしまうことをラットの実験で発見し、2017年1月24日付けの科学誌で発表しました。

ちなみに無機や有機とは何か?18世紀に作られた分類法なので現在では例外が多くなっていますが、原則として有機物とは、生物内で作られた炭素を含む物質のことです。具体的にはタンパク質や脂肪などを意味します。

ただし二酸化炭素、シアン化合物、炭酸水素ナトリウムなどは炭素を含んでいますが現在の化学では無機物質に分類されます。紛らわしい話ですが有機野菜とは、有機質肥料を使って栽培した野菜という意味です。混同してはいけません。

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水銀は便利な物質です

水銀は、今でこそ危険な物質と考えられています。とはいえ化学が未発達だった頃は、反応力が高かったので便利な物質として重宝されていたようです。

1.金の精製に使える

水銀の有用性を示したのは、金の精製に使えたことかもしれません。基本的に金は、自然界において砂金や鉱物の中など微量にしか存在していません。それを効率的に集める必要がありました。

そもそも金は他の物質とは反応しにくい物質です。だからこそ純金は長期間空気に触れていても錆びることなく常に輝きを失わず、富の象徴として貴重品扱いされたのです。

ただし金は水銀とは反応しアマルガムを作ります。そのため鉱石を高温で溶かし、水銀を混ぜることによって金を取り出すことができたのです。そこから錬金術、つまり金を人工的に作り出す技術においても水銀が重宝されたのでしょう。

もちろん今では水銀の有毒性が知られ、一方で新しい技術も確立したので、工業生産的には水銀を利用することはありません。しかし一部の地域住民が伝統的手法として精錬する際には水銀を用いる事例が残っているようです。

2.温度計に最適です

今はほとんどがデジタルに変わっていますが、昭和の時代に体温計と言えば水銀体温計でした。水銀は温度計として非常によい特徴を持っていました。
参考「小学校の理科が変わっている?日常生活から消える物も多いです

第一に熱膨張率が安定していることです。つまり温度と体積が比例の関係にあります。温度計として重要なことです。ちなみに水は、0℃で氷になってしまうし、最も体積が小さくなるのは+4℃です。熱膨張率という点では扱いずらい物質です。

第二に金属なので熱を伝えやすい性質があります。すなわち水は、熱しにくく冷めにくい!人体内での化学反応には水が適していますが、温度を測ることだけに注目すると液体金属である水銀は、非常に重宝する物質なのです。

とはいえ「水銀に関する水俣条約」が2013年に採択されました。それに伴い水銀体温計は2020年、製造および輸出入が禁止されます。

3.圧力の単位です

天気予報で現在気圧の単位として使われているのはパスカルです。例えば1気圧は1013hPa(ヘクトパスカル)です。とはいえ今でも血圧測定に際してはmmHg(ミリメートルエイチジー)が使われています。このHgは水銀のことです。

かつて1気圧は760mmHgと表記されました。つまりビーカーに水銀を満たし、そこへ真空にした1メートルの高さがあるガラス管を差し込みます。すると水銀は760ミリ、すなわち76センチの高さまでガラス管内を上昇します。これはビーカーにある水銀を空気が押す力、言い換えると大気圧を現わしています。

水銀を760ミリまで押し上げる強さ!これが空気の圧力、気圧と言うことです。もちろん今こんな実験は危険なのでできません。1643年イタリアでトリチェリが行ったので、トリチェリの実験と呼ばれています。ちなみに同じ実験を水でやると、計算上は10メートルの高さになります。

4.消毒薬として使える

中高年であればマーキュロクロム液?つまり傷薬として使われていた「赤チン」を覚えているでしょう。これには水銀が入っていました。毒性があるということは、裏を返せば殺菌力です。

もちろん有毒性という観点から、日本での製造は禁止されています。とはいえ有効性は否定できないので、一部輸入品が流通しています。塗ると赤く、ちょっと金属的な輝きもありました。懐かしさはありますね。

5.蛍光灯には必須の物質です

ほとんど知られていないようですが、家庭でも使っている蛍光灯には水銀が含まれています。これは発光の原理として不可欠です。1本当たり約10ミリグラム使用されているとか。

もちろん蛍光灯を割らない限り外部へ漏れる心配はないし、適切に回収すれば、環境破壊の心配もありません。ですが環境の観点から、昨今ではLEDランプへの代替が急がれているようです。

とはいえ蛍光灯の水銀に関してマスコミはどこも伝えていません。ただし伝え方次第ではパニックになる?LEDが一気に普及する!どうなるかが見ものです。ちなみに蛍光灯を不燃物扱いでゴミ収集している地域の方が、豊洲より危険かもしれませんよ。

豊洲の水銀はどこから来たのか

平成の時代であれば、一般の人が水銀に直接触れる機会はないでしょう。とはいえ豊洲に行けば水銀と出会える?風評被害が心配です。ではいったいどこから水銀はやってきたのでしょうか。

もちろん豊洲新市場が建てられた場所は、かつて東京ガスの工場跡地です。諸説ありますが、ガスを作る原料の石炭に含まれていたのでは?それが土壌および地下水に入り残っているようです。

ただし現在でも家庭で使われているガスには極めて微量ながら水銀が含まれています。ゼロにすることはほぼ不可能です。豊洲市場の問題も、そこまで気にするかどうかです。科学的には安全だけど、心理的には安心できない?ということでしょう。

もっとカンタンに解説した記事はコチラ→小学生でもわかる!水銀とは何か?【わかりやすい解説】

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