
2017年10月17日18時頃、自衛隊の救難用ヘリコプターUH60Jが浜松沖の海上で消息を絶ちました。夜間訓練中に墜落した模様です。
10月11日には沖縄で米軍のヘリCH53Eが「不時着」しました。
飛行機と違いヘリコプターは特殊な構造をしています。空中で止まることもできます。
その原理を正しく理解することで、落ちる原因を特定し、世間の誤解を解く、防ぐことができるかもしれません。
目次
自衛隊のヘリが墜落した
2017年10月17日の夕刻、夜間訓練に出発した航空自衛隊浜松基地所属の救難ヘリコプターUH60Jが同日18時頃、レーダーから消え、連絡が途絶えました。
早々に捜索を始めましたが、少しずつ同機の部品らしきものが見つかっています。
捜索には、墜落した同型ヘリコプターを飛ばしています。これについて特に大きな批判はありません。
しかし、沖縄では「不時着したCH53Eの同型機を飛ばすな!」勝手に米軍が飛ばしたら、批判が飛び出ています。
このダブルスタンダードは何でしょうか。単なる感情論ではいけません。
なおヘリではありませんが翌日の10月18日、茨城県にある航空自衛隊百里基地においてF4EJ戦闘機が事故を起こしました。
走行中に脚が折れたようです。自衛隊の事故が続いています。こちらも心配です。
2017年だけでもヘリの事故が多い
2017年だけでもヘリコプターに関する事故が多発しています。時系列で並べてみましょう。
なお議論はありますが、オスプレイも含めます。
- 1月20日 沖縄県伊計島の農道に米軍ヘリAH1が不時着
- 3月5日 長野県の山中に長野県消防防災ヘリ、ベル412EPが墜落
- 3月14日 神戸空港において訓練中のユーロコプターAS350B3が横転
- 8月17日 岩国基地内で海上自衛隊のCH101が墜落
- 8月26日 青森県沖で発着艦訓練中の海上自衛隊SH60Jが墜落
- 8月29日 米軍のMV22オスプレイが大分空港に緊急着陸
- 9月29日 米軍のMV22オスプレイが石垣島空港に緊急着陸
- 10月11日 沖縄県東村の牧草地に米軍ヘリCH53が不時着
- 10月17日 静岡県浜松沖に訓練中の航空自衛隊のUH60Jが墜落
米軍が事故を起こすと非難ごうごうですが、オスプレイを含めて農道など安全な場所に着地させています。
墜落と同じだ!と言われますが、狭い場所に人的被害をなくして降りることは極めて至難の業です。
逆に、さすが米軍あっぱれ!のはずですが、そうした報道は一切行われません。不思議です。沖縄県民の感情を忖度しているのでしょうか。
ヘリコプターとは
1.回転翼を持つ飛翔物体です
飛行機は固定翼機と呼ばれます。つまり翼が固定されているからです。
一見するとプロペラですが、あれ1枚1枚が翼の役割をしているからです。この大きな回転翼をローターと呼びます。
そこでオスプレイはヘリコプターなのか?を考えてみましょう。
垂直上昇する原理で考えるとヘリコプターです。とはいえ、平常飛行をする際には、固定翼のプロペラ機と同じ原理で進みます。
そのためティルトローター機と呼ばれます。
ティルトtiltとは、傾けるという意味です。すなわちローターを機体に対して傾ける、動かして使うので、その名が付いています。
これは飛行機を垂直離陸させたい!ヘリコプターより速く、航続距離が長くなる目的で開発されたからです。
2.機体に働く力は飛行機と同じです
空中を飛ぶヘリコプターに働く力は、飛行機と同じ4つです。
- 地上に落下しようとする重力
- 重力に反して上昇させるための揚力
- 前進するための推進力
- 空気などによる抵抗力
飛行機は、常に前進して推進力を保たないと墜落します。いわゆる失速です。
しかし、ヘリコプターは揚力を高めることにより空中で止まる、すなわちホバリングすることが可能です。
3.下向きの力を強めることで離着陸します
飛行機は助走によってスピードをつけて離陸します。
しかし、ヘリコプターは垂直上昇・下降できます。
そのためヘリコプターが近づくと、砂ぼこりが舞い上がったり、強い風が出ます。
下向きの強い力は、逆に自分たちの安定を狂わせることもあります。両刃の剣です。この辺の使い分けが、ヘリ操縦の難しさです。
もちろん地上にいる人も、注意しないと飛ばされたりします。また回転翼に巻き込まれる可能性もあります。
4.後ろのプロペラは、回転止めです
ヘリコプターは、後ろにも回転するプロペラがあります。これをテイルローターと呼びますが、この向きは、考えてみると不思議な方向です。何の役割があるのでしょうか。
上にあるメインローターを回すと、機体自体を回そうとする力が働きます。
つまり、ヘリの機体がローターと一緒にグルグル回ってしまうのです。
またテイルローターは、地面に対して垂直についているとは限りません。少し傾けることにより、それ自体からも揚力を得る工夫がなされています。
なお、オスプレイにテイルローターはありません。
しかし、左右に二つある大きなメインローターを逆回転させることで、機体の回転を防いでいます。
5.最近はエンジン2発が主流です
回転翼は1本の軸についています。ならばエンジンは1つだけなのでしょうか。
小型ヘリの場合は、1つだけのケースが多いようです。
とはいえ、過酷な状況で使われる軍用ヘリは万が一に備えて2つ、つまり2発タイプが主流になっています。
もちろん安全性も高まります。同時に2つのエンジンが止まる?確率的にまれだからです。
なお、米軍そして自衛隊でも使われている大型ヘリCH47は、前と後に大きなローターが1つずつ付いています。
これによって安定性が増しています。もちろん逆回転させることによりテイルローターは不要です。
さらに、主軸の回転翼を2段構えにする!それぞれ逆回転させることによってテイルローターを不要にしたロシア製ヘリKa52などもあります。
事故が起きる理由は何か
1.操縦ミス
海上自衛隊のヘリコプターが墜落した件に関しては、操縦ミスと判断されているようです。
8月17日の事故は、機長と副機長の連係ミスだったとか。それが単純なミスなのか?何かトラブルがあったのか?
もちろん人間ですからミスはあります。ミスがないように自衛隊や米軍は訓練を重ねています。
一方で人為的ミスを防ぐ目的で自動操縦化が進んでいますが、自動操縦が解除されたのを気付かずに操縦していた?そんな事例もあります。
2.隊員の疲弊
自衛隊に関しては、昨今の尖閣諸島を含めた南・東シナ海の状況、そして北朝鮮情勢を考えると、休む暇もなく働いています。
もちろんそれが仕事ではありますが、さらに九州を中心とした災害支援、鳥インフルエンザが発生すれば、その始末などにかり出されます。
とはいえ隊員数を増やしてもらえるわけではありません。
阪神大震災を境として自衛隊のありがたさ、やりがいなどが国民に浸透しているようですが、それでも戦争が近い?そうした雰囲気があると、自衛隊に入りたい若者、子供を自衛隊に送り出せる親、増えはしないでしょう。
今回も救難のベテランが失われました。
ベテランを育てるには10年単位の期間と億円単位の費用がかかります。
今の自衛隊が抱える状況は、優秀なパイロットが特攻で消えていった太平洋戦争末期に似ているのかもしれません。
3.機体の老朽化
航空自衛隊の戦闘機F4EJは40年以上も使い続けている機体です。
またヘリコプターのCH53、UH60なども適宜改良は進められていますが、40年以上も前に設計された機体です。
いずれも私が小学生の頃に買った「世界の軍用機1978」に載っています。
今の自衛隊や米軍が使っている飛行機やヘリは、私の子供時代から飛んでいるものです。そんなものがなぜ今でも主流として使われるのか?
もちろん冷戦が終結し、軍隊へお金が回らなくなったのも事実です。
逆に昨今は開発費が高騰して、簡単に最新鋭機が買えなくなっています。
とはいえそろそろ真面目に考えないと、本当の有事に際して使えない?なんてことがあるかもしれません。困ります。
機体の更新が不可欠です
少なくとも米軍や自衛隊に関して、機体の更新が不可欠でしょう。
オスプレイは危険?とは言いますが、CH53の方がリスクは大きいです。
戦闘機も最新型に更新しないと、朝鮮戦争時の機材を使い続けている!北朝鮮のことを笑えなくなります。
防衛費が上がることは、本当に国民にとってデメリットなのでしょうか。
(蛇足)報道姿勢について
米軍が事故を起こした際に非難する人たちは、米兵の安全を気遣いません。
一方で消防や警察、自衛隊のヘリが墜落すると、隊員の安否を心配し、事故を非難しません。
今回墜落した自衛隊のヘリコプターは東日本大震災でも活躍した救難用です。だから忖度したのでしょうか。
マスコミは客観的な報道をすべきでしょう。