
真空とは何か?
本当に何もないのでしょうか。何もないということが、ちょっと理解しがたいかもしれません。
そもそも空気自体、何もないと考えてしまいます。
参考「空気とは何か?組成や重さ、空気抵抗、空気の役割などを理解しよう」
とはいえ空気、すなわち気体中には真空の箇所があるはずです。
つまり、原子が高速で飛び回っています。原子の真後ろには何があるのでしょうか?原子同士が密着していない限り、何らかの空間があるはずです。
目次
素朴な疑問からスタート
真空とは何か?まずは素朴な疑問からスタートしてみましょう。
それがものごとを考える時の基本です。簡単なところから、少しづつ深めていくことが大切です。
1.空気(気体)は真空か
空気は真空でしょうか。
違います。
空気の中には酸素や窒素の分子があります。それらが超高速で飛び回っています。この状態を気体と呼びます。
なお空気と考えれば、見えないだけであって、小さなホコリ、インフルエンザウイルスなどの病原体も飛び回っているでしょう。まったく何もないとは言えません。
電車で考えると、ラッシュ時は隙間がありません。ただし午後の上り線はガラガラ、空間があります。
では気体でいうこの空間・隙間は、真空なのではないか?という疑問が生まれます。
2.固体・液体に真空はないのか
固体や液体に真空な場所はないのでしょうか。
これを考えるには、そもそも固体や液体・気体の違いは何かを知らなくてはなりません。固体・液体・気体は原子や分子の状態が違います。
固体
固体とは、原子や分子がくっついて、動き回れない状態です。つまり身動きできない超満員の電車内と同じ状態です。
液体
液体とは、固体よりも自由に動けますが、原子や分子同士のつながりはあるので移動に制限があります。混んではいても、移動できる満員電車のイメージです。
気体
気体とは、原子や分子同士のつながりがほぼない状態です。自由に動けます。ガラガラの電車内です。好きな所へ行けて、好きな場所で座れます。
疑問
分子や原子が隣り合うと固体や液体であっても、かど同士がぴったりくっついて隙間がないのでしょうか?
つまり原子のイメージは球体です。ボール同士を並べても空間はできます。ならばそこに真空はないのでしょうか。
参考「ネコは液体か?固体・液体・気体とは何か?意外にあいまいです」
3.原子は真空だらけ
原子のレベルでみると、真空が見えてきそうです。
つまり、原子は中心に原子核があり、その周りを電子が高速で飛び回っていると考えられています。
ならば、この原子核と電子の間には何があるのでしょうか?これこそ真空ではないのでしょうか。
参考「夏休みに克服しよう!イオンとは何か?中学校理科の難題です」
原子核の大きさは10のマイナス15乗メートル、電子軌道を含めた原子の大きさは10のマイナス10乗メートルです。
イメージとして、原子核が東京ドームのピッチャープレートに置いた砂粒だとすると、原子1個の大きさは山手線の軌道に相当します。
その間は何で満たされているのか?これこそ真空ではないのか?
4.空間とは何か
空間とは何でしょうか?
辞書で調べると「あいている場所」「隙間」という意味が載っています。
とはいえここで意味する空間とは、私たちが住む三次元空間のことです。
つまり直角に交わる座標を考えた場合、縦・横・高さ、この3つの指標で表現できる場所です。
たとえば友人と待ち合わせをする際に、住所を特定すれば、縦と横が指定できます。京都や札幌など、碁盤の目状に作られた街を考えるとわかりやすいでしょう。
そして高さは、地上何階?などです。通常は1階ですね。
こうした広がりを空間と呼んでいます。
(蛇足)真空パックとは何か
食品に関して保存性を高めるために真空パックが使われています。この中は真空なのでしょうか?
とはいえ真空とは、何もない空間のはずです。しかし真空パックの中には食品が入っています。
つまり真空パックの場合は、空気を極力入れていません!と言う意味です。
なぜ空気を入れないようにするかといえば、空気中の酸素が病原微生物の活性を高めることが問題になるからです。
そのためポテトチップスの袋や缶コーヒーの中には、酸素を入れず窒素充填することがあります。酸化を防ぐためです。
ただし、真空だからと言って100%安全なわけではありません。酸素がない状態でこそ増殖できる嫌気性の食中毒菌が多いからです。
見分け方として、真空パックや缶詰が膨らんでいた!この場合は、絶対に食べてはいけません。
真空の定義
真空には、いくつかの定義があります。
真面目に考えだすと難しいです。わかる範囲でお読みください。
1.古典論による真空の定義
まず古典論で考えると、絶対真空と負圧(ふあつ)があります。
絶対真空
絶対真空とは「まったく何もない空間」です。原子を含めた物質すべてがない状態です。
なんとなくイメージはしやすいでしょう。私たちが「普通に」抱く真空は、これかもしれません。
負圧
負圧とは「大気圧よりも低い状態」です。
ちょっとわかりづらいかもしれませんが、まずは箱をイメージしてください。
箱の中が真空状態、つまり何も入っていないのであれば、外気、すなわち空気の圧力で箱がつぶれてしまうはずだからです。
後述するJIS規格のように、真空の測り方として圧力を使います。
(補足)
古典論とは、量子力学以外の物理理論を意味します。相対性理論も古典論に入ります。
とはいえ古い、新しいという意味ではなく、量子力学の概念が他の物理理論とまったく異なるから分けているにすぎません。
2.量子論による真空の定義
量子力学に基づいて、ミクロの視点から物理現象を考えていく理論の総称を量子論と呼びます。
こちらは私たちの実感とは大きく異なります。そのため、わたしを含めてほとんどの人は理解できません。
逆にわかっている人は、「本当にわかっているのか?」疑問に思えます。天才と凡人の差です。
その量子論による真空とは「エネルギーが最低の状態」です。
ただしまったく何もないのではなく、何かが常に生まれ、消えていく、具体的には電子と陽電子が対になって生成、消滅をする、これを繰り返しています。
つまり一見何もなさそうなところから新しく何かができる?これが宇宙の始まりに関係しているようです。
3.JIS規格における真空の定義
JIS(日本工業規格)では真空を「通常の大気圧より低い圧力の気体で満たされた空間の状態」と定義しています。
注釈として「圧力そのものをいうのではない」とも記されています。
こちらは実用的な定義です。
さらにかける圧力に応じて
- 低真空
- 中真空
- 高真空
- 超高真空
に分類しています。
トリチェリの実験
真空を初めて実験で示したのはイタリア人の物理学者であり、ガリレオの弟子と言われたトリチェリです。
理科の教科書にも記載されている有名なトリチェリの真空と呼ばれる実験であり、1643年に行われました。
実験方法
具体的には、水銀で満たされた水桶の中に長さ1メートルのガラス製試験管を沈めます。
ガラス管内を水銀で満たした後、そのガラス管の閉じられた方を上にして立たせます。
すると、満たされていたはずの水銀は、ガラス管内の76センチの高さまでしか到達しません。
つまり閉じられたガラス管内の上部24センチの間は、何もない空間が生まれます。ここが真空状態になっている部分です。
トリチェリの真空は大気圧を調べる実験
なおこれは、大気圧を調べる実験です。
水桶に張られた水銀の水面を空気、すなわち大気圧が押します。大気圧と水銀の圧力が釣り合った状態で、ガラス管内にある水銀の高さが決まります。
ここから1気圧=760mmHg(ミリメートルエイチジー)という単位ができました。
宇宙は真空なのか
宇宙には空気がありません。星もまばらにしかありません。では、宇宙空間は真空状態なのでしょうか。
実は全く何もないわけではないようです。ごく微量ですが、水素やヘリウムの原子などが存在しています。
宇宙空間を通って太陽から地球まで熱や光が届いています。
かつては、「熱や光を運ぶ何らかの物質があるはずだ!」そう考えられていました。たとえば音を伝える空気のような存在です。それをエーテルと呼んでいました。
しかし現在では、光や熱、いわゆる電磁波は、それらを伝える物質を必要としないことがわかっています。
そのため真空の中でも光は移動できるのです。
なお未だ発見されていませんが、宇宙はダークマターと呼ばれるエネルギーを持つ何らかの物質によって満たされている?そう考えられています。
そのため宇宙は、厳密な意味での真空ではありません。
真空とは何か
真空とは何か?
「まったく何もない空間は、物理学的にはない!」そう考えるのが一般的です。
とはいえ、本当に真空状態はありえないのでしょうか。もちろん定義の問題です。
真空について考えることは、楽しいと思いませんか?壮大な暇つぶしになります。
一歩間違えば?あなたもノーベル賞が狙えるかもしれません。