
寒さを防ぐために、人間は衣服をまといます。
最近はイヌに服を着せる人も増えていますが、それは本当に必要なのでしょうか。
つまり、ほ乳動物は「毛皮」を着ているからです。
言い換えると、なぜ人間は毛皮がないのか?
遠い親戚でもあるチンパンジーやオランウータンは、熱帯という温かい地域に住んでいるにも関わらず長い毛で覆われています。
逆に熱帯圏の先住民たちは、半裸状態が少なくありません。
ならば
- 毛皮とは何か
- その成り立ち
- 必要性
- そもそも生物種によってなぜ体表が異なるのか
その理由について考えてみましょう。
目次
毛皮とは何か
1.毛皮の定義
毛皮に明確な定義はありません。
単に毛だけをとれば、羊毛などのように繊維となります。逆に皮だけなら、牛皮などのように革製品です。
皮と革の違い
なお皮と革の違いは何か?
皮は、いわゆる皮膚、表面をおおっているものです。そのため樹皮などと植物でも使われます。
一方で革は、なめすなど加工されたものを指すことが多いようです。とはいえ皮膚から毛を除いた皮だけを意味することもあります。
2.毛皮が生まれた理由は何か
毛皮はなぜ生まれたのでしょうか?
言い換えるなら、使う機会が減った器官は、退化する運命にあります。たとえば人間の盲腸(虫垂)や尾てい骨です。
進化という視点で見るならば、脊椎動物のうち、魚類、両生類、は虫類までは体表に毛が生えていません。いずれもウロコや湿った皮膚を持っています。
だからなのか、これらの生き物は寒くなると冬眠します。もちろん逆かもしれません。は虫類は冬眠するから毛を必要としなかった、という可能性もあります。
参考「冬眠とは何か?動物が冬ごもりをする理由や冬越しの方法について」
一方で鳥類やほ類は生存競争に勝つため、他の生物がいなくなる冬に活動する際、毛皮や羽毛を持った個体が生き延びた?と考えることもできます。
3.毛皮の役割
(1)身体の保護
毛皮の役割は何でしょうか。
後述するように例外はありますが、ほ乳動物にウロコはありません。
人間はちょっとしたことで皮膚をすりむきますが、イヌやネコは毛皮がクッション替わりをしています。
人間も頭髪やわき毛、陰毛など、大切な部分には今でも体毛が残っていると言えます。
そこからも毛皮の持つ身体保護機能はあなどれない重要な働きだとわかります。
(2)保温効果
もちろん、毛皮には保温効果もあります。これが一番重要かもしれません。
とはいえ、夏は暑そうです。そのため多くのほ乳動物では、冬毛と夏毛があります。季節の変わり目は、イヌでも抜け毛が増えます。
ヒトは昔から、多くのほ乳動物の毛皮を使って衣服を作ってきたようです。
これも毛皮をなくしたヒトが、寒さから身体を守るためと考えられます。それによって絶滅した動物は少なくないでしょう。
参考「対馬でカワウソが38年ぶりに見つかった?研究者の責務は何か」
(3)識別作用
識別の意味もありそうです。
動物は一般的に嗅覚が発達しています。そのためイヌのおしっこで代表されるようにマーキングをしてなわばりを主張します。
鳥類や魚類で顕著ですが、クジャクのオスで代表されるように綺麗な羽毛でメスの気を引きます。
毛皮の状態によって健康の有無を知ることもできます。
そうした識別も野生状態では重要になります。
ちなみにジャイアントパンダの赤ちゃんシャンシャンがかわいいと評判ですが、これは独特な垂れ目模様がカギかもしれません。
周りにかわいいと思わせて保護してもらう?意図的に進化させたのであれば賢いですね。あれが釣り目模様だったらどうでしょうか?
参考「祝出産!赤ちゃん誕生!その裏にあるパンダの繁殖が難しい5つの理由」
(4)保護色
さらに保護色、シマウマやトラがしま模様なのは、外敵もしくは獲物に見つからないように隠れる意味があったとも言えるでしょう。
情景に紛れることができる毛皮を進化させた個体が生き残ったのです。
上述のように冬毛と夏毛に変えるのも、雪景色なら白く、森の中なら茶色に、保護色としての意味は重要かもしれません。
4.ヒトはなぜ毛を失ったのか
人類の進化という観点で考えれば、チンパンジーまでは毛皮があります。
書物などでも出てくる原始人のイメージ図では、動物の毛皮から衣服を作っています。現在北極圏で住む先住民たちも毛皮を利用しています。
ならば毛皮があった方がよかったような気もしますが。なぜヒトは、毛皮を失ったのでしょうか。
アフリカの森にいた霊長類のうち、樹上生活を選んだのがチンパンジーで、草原へ出た種がヒトに至った?そうした説明もあります。
とはいえ強い日差しをさえぎるには、毛皮があった方がよかった?だから皮膚が黒く進化したのでしょうか?
その後の人類の分散、世界中に広がった過程を考えれば、毛皮を残していた方がよかった場合もありそうです。
それが今でも噂の雪男なのでしょうか。
生物種による体表の違い
生物種による体表の違いについて触れておきましょう。
ただし生物には例外があります。ここでは一般的な特徴について述べるにすぎません。
1.ほ乳類は毛
ほ乳類は、上述したように毛が生えています。皮膚とあわせて毛皮と呼ばれます。
言い換えると、毛皮を有している生き物をほ乳動物と言うこともできそうです。もちろんヒトは例外です。
2.鳥類は羽毛
鳥類もほ乳類と同じく恒温動物です。基本的に冬眠しません。そのために羽毛を進化させたようです。
私たちもダウンジャケットや羽毛布団など、羽毛の恩恵を受けています。
3.は虫類はウロコや甲羅(こうら)
は虫類の体表はウロコです。ヘビ、トカゲ、ワニなどのイメージです。
外敵から守ると同時に、陸上生活に適応するため、体表からの水分蒸発を防ぐ働きがあります。
一方でカメは、甲羅(こうら)を作りました。これは肋骨が広がったとの説が有力です。
4.両生類は湿った皮膚
両生類は、湿った皮膚を持っています。肺呼吸に加えて皮膚呼吸もしています。
そのため常に湿った状態でないと死んでしまいます。だから水辺に住んでいます。
5.魚類はウロコ
魚類もウロコがあります。サメも小さなウロコになっています。
例外は多いですが、細かいウロコを持つ種がいます。ウナギも厳密に言えばウロコがあります。
6.節足動物は外骨格
無脊椎動物のうち甲殻類、昆虫などの節足動物は、固い外骨格を持っています。
もちろん身体を守る働きがあります。また水分の蒸発も防いでいます。保護色を利用して隠れる昆虫が少なくありません。
毛皮の変化・進化・退化?
1.ハリネズミは体毛が針状になった
例外をいくつか見ていきましょう。
たとえばハリネズミやハリモグラです。針のようなトゲが体表にあります。
これは毛が変化したものと考えられてます。弱い動物なので、外敵から守る働きがあるのでしょう。
2.センザンコウはウロコにおおわれている
ほ乳類にもウロコを持つ種があります。それがセンザンコウです。東南アジアに生息しアリを主食にしています。
一見するとオオトカゲのように見えますが、生態は大人しいです。それが理由で身を護るためにウロコを進化させたようです。
ただし捕まえると、ダンゴムシのように丸まります。するとウロコのボールになります。肉食獣がかみついても、歯が立ちません。
3.ハダカデバネズミは毛がない
奇妙な動物にハダカデバネズミがいます。名前の通り、毛がまばら、そして出っ歯です。
地中に穴を掘り、アリのようなコロニーをつくって集団生活しています。
地中に住むから毛がいらなくなったのか?しかし体温調節機能がないとも考えられています。実に不思議な生き物です。
4.熱帯産のイヌには服を着せるべきかも
冒頭で、イヌに服を着せるのは正しいのか?疑問を呈しましたが、昨今は熱帯原産のイヌも多く飼われています。
赤ちゃんなど小さい個体なら、体温調節機能も劣っているようです。
ならば衣服を着せるのは、ある意味で正解かもしれません。
ステータスという新たな役割も
人間が毛皮製品をまとう理由は?
防寒の意味もあるでしょうがミエ?「高価なコートを着てますよ!」ステータスシンボルやファッションという新しい毛皮の役割を考案したのかもしれません。識別作用の一種か?
とはいえ、野生動物保護や動物虐待禁止という観点から、養殖であっても天然の毛皮製品を使わない傾向が国際的に広がりつつあります。
毛皮製品は温かいですが、最近では人工繊維も温かい、軽い、安いですよ。